「志とは何ですか?」と聞かれたとき、すぐに答えられる人は、そう多くないと思います。夢や目標と似ているようで、少し違う。私は、志とは「心が目指す方向」ではないかと考えています。

目標には、売上や人数、期限など、具体的な数字を置くことができます。そして達成すれば、次の目標を決めることができます。一方で志は、達成したら終わるものではありません。自分は何のために働くのか。誰に、どのような価値を届けたいのか。どんな社会を次の世代に残したいのか。そうした問いに向き合うとき、心の奥に見えてくる方向が志です。

経営をしていると、毎日のように判断を求められます。利益を優先するのか、お客様との信頼を守るのか。目の前の効率を選ぶのか、時間がかかっても人を育てるのか。正解が一つではない場面ほど、自分の志が判断の軸になります。志が明確であれば、迷いがなくなるわけではありません。それでも、迷ったときに戻る場所ができます。

また、志は立派な言葉である必要もないと思います。「地域を元気にしたい」「働く人が誇りを持てる会社にしたい」「困っている人の力になりたい」。自分の実感から生まれた言葉であれば、それは十分に志になり得ます。誰かから借りた言葉ではなく、自分が本当にそうしたいと思えることが大切です。

そして志は、胸の中にしまっておくだけでは、なかなか形になりません。言葉にして人へ伝え、日々の仕事の中で行動に移すことで、少しずつ周囲へ伝わっていきます。その姿を見た人が共感し、新しい力を貸してくれることもあります。志には、人と人をつなぎ、同じ方向へ進む推進力があります。

今の時点で、明確な志が見つかっていなくても問題はありません。これまで心が動いた出来事や、どうしても見過ごせなかったことを振り返ると、自分が大切にしているものが見えてきます。志とは、遠くにある特別な答えではなく、すでに自分の心が向いている方向なのかもしれません。